「変革期の医学教育と献体の意義」(つくば白菊巻頭言)

つくばしらぎく会報誌巻頭言

まず、本年も6月に筑波大学において医学類生の解剖実習を無事終了いたしましたことをご報告申し上げます。この実習は、医学類生が人体の精緻な構造を学ぶだけでなく、生命の尊厳と医療の本質を体感する貴重な機会です。6週間に渉る解剖実習の経験を通じて、学生たちは医療者としての確固たる基盤を築くとともに、人間性豊かな医師への第一歩を踏み出すことができました。

さて近年、医学教育を取り巻く環境は大きな変革期を迎えています。2020年度から実施された医学教育モデル・コア・カリキュラムの改訂、そして2023年度からの共用試験の公的化は、その象徴的な出来事といえるでしょう。

改訂されたコア・カリキュラムでは、Society 5.0時代に即した医療人材の育成を目指し、AI・ビッグデータの活用能力、多職種連携、地域医療への理解など、今日的な要素が強化されました。これにより、解剖学を含む基礎医学教育においても、臨床応用や社会的文脈を意識したより統合的なアプローチが求められるようになりつつあります。

一方、共用試験の公的化は、医学教育の質保証という観点から画期的な変革です。これまで各大学の裁量で実施されてきた共用試験が、医師国家試験と同様の公的な資格試験として位置づけられることで、臨床実習前の学生の知識・技能の水準が全国的に担保されることとなりました。これにより、より実践的で充実した臨床実習の実現が期待されています。

このような変化の中で、解剖実習の意義はますます深まっていると確信しております。人体の構造と機能を深く理解することは、最先端の医療技術を適切に活用する上でも、患者さんと真摯に向き合う上でも不可欠な基盤となるからです。同時に、献体という尊い行為を通じて医学教育に貢献くださる皆様の存在は、技術や制度の変化だけでは得られない、医療の本質的な価値を学生たちに伝えています。

生命の尊厳、医療者としての使命感、そして人々への深い共感と思いやりの心―これらの普遍的価値は、皆様の崇高なご意思によって、次世代の医療を担う若者たちの心に深く刻まれていきます。テクノロジーが急速に進歩する現代だからこそ、このような人間性の涵養がますます重要になっているのです。

本学では、このような医学教育の変化に適切に対応しつつ、献体による解剖実習の伝統を大切に守り、さらに発展させていく所存です。新しい教育手法やテクノロジーを積極的に取り入れながら、皆様のご意思を最大限に活かした教育プログラムの構築に努めてまいります。また、学生たちが皆様の尊いご意思を深く理解し、生涯にわたって医療者としての使命を全うできるよう、倫理教育にも一層力を入れてまいります。

結びに、あらためて会員の皆様の崇高なご意思に深甚なる感謝の意を表しますとともに、今後とも変わらぬご支援を賜りますようお願い申し上げます。

2024年7月

筑波大学医学群長 解剖学・神経科学教授 武井陽介

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