第263回定例会は10月に開催されます。
つくばブレインサイエンス協会(TBSA)では、毎月、神経科学をテーマにセミナーを行っております。
医学、生物学、心理学、工学といった幅広い分野から専門の先生方をお招きし、最先端の内容を他の分野の方々にもわかりやすく解説していただいております。
セミナーは無料で公開されていますので、どなたでもご自由にご参加いただけます。
なお、このセミナーは筑波大学大学院修士課程フロンティア医科学学位プログラムとの共催です。
第263回2021年 10月 26日(火) 午後6時からオンライン講演(双方向型)
司会 松本 正幸
タイトル:統合失調症と硫化水素
演者:井出 政行(Masayuki Ide)先生(筑波大学医学医療系)
要旨
統合失調症における主な分子生物学的な研究試料は死後脳であるが、研究に十分なサンプル数を確保することは非常に難しい。代理マーカーとして白血球を使用する方法も用いられることがあるが、脳とその他の組織で標的分子の発現量が同様の挙動を示すとは限らない。B57BL/6N (B6) とC3H/HeN (C3H) の2つの近郊系マウスでは、C3Hのプレパルスインヒビション(PPI)がB6と比較して低く、統合失調症でのPPI低下と類似する。さらにQTL解析によりPPIに関連するマウスの遺伝子領域が同定されている。今回我々は、B6とC3Hでのタンパク質発現を脳と脾臓リンパ球でプロテオミクス解析用いて比較し、硫化水素の産生酵素である3-mercaptopyruvate sulfurtransferase (Mpst) のC3Hでの発現量がB6と比較し、2つの組織で増加していることを見出した。Mpstの遺伝子領域はPPIのQTLには一致しなかったが、MPST遺伝子の増加は統合失調の死後脳でも確認された。またMpstの遺伝子操作マウスの解析により、過剰に産生された硫化水素がPPIの低下に関与しており、過剰な硫化水素によるミトコンドリアでのエネルギー産生低下とParvalbumin発現量の低下が統合失調症の発症に関与していると考えられた。Mpst遺伝子発現増加の機序としては、妊娠中にPoly I:Cを投与された母親から生まれたマウスではMpstの発現量がDNAのメチル化に相関して増加しており、エピジェネティックな機序によりMpstの発現が増加する可能性が示唆された。MPST遺伝子の発現増加は統合失調症の毛根でも確認することができ、毛根のMPST発現がバイオマーカーとなる可能性が示唆された。
