Journal Club (May 20, 2023)

Volume 27, Issue 10, 4 June 2019, Pages 2817-2825.e5

Exercise Reverses Behavioral and Synaptic Abnormalities after Maternal Inflammation (運動は母体炎症後の行動とシナプスの異常を回復させる)

Megumi Andoh 13, Kazuki Shibata 13, Kazuki Okamoto 1, Junya Onodera 1, Kohei Morishita 1, Yuki Miura 1, Yuji Ikegaya 12, Ryuta Koyama 14

1Laboratory of Chemical Pharmacology, Graduate School of Pharmaceutical Sciences, The University of Tokyo, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0033, Japan2Center for Information and Neural Networks, 1-4 Yamadaoka, Suita City, Osaka 565-0871, Japan

東京大学大学院約学研究科 薬品作用学教室の小山隆太先生、安藤めぐみ先生らのグループ

Received 27 April 2018, Revised 11 March 2019, Accepted 1 May 2019, Available online 4 June 2019, Version of Record 4 June 2019.

Highlights

  • MIA causes behavioral and synaptic abnormalities in the offspring (MIAは子孫に行動とシナプスの異常を引き起こす)
  • Microglia-dependent synaptic engulfment is impaired by MIA (MIAにより、ミクログリア依存的なシナプス貪食が阻害される)
  • Voluntary running in adulthood ameliorates MIA-induced abnormalities (成人期の自発的なランニングはMIAによる異常を改善する)
  • Voluntary running stimulates microglia-mediated engulfment of surplus synapses (自発的なランニングは、余剰シナプスのミクログリアを介した刈り込みを刺激する)

Summary

Abnormal behaviors in individuals with neurodevelopmental disorders are generally believed to be irreversible. Here, we show that voluntary wheel running ameliorates the abnormalities in sociability, repetitiveness, and anxiety observed in a mouse model of a neurodevelopmental disorder induced by maternal immune activation (MIA). Exercise activates a portion of dentate granule cells, normalizing the density of hippocampal CA3 synapses, which is excessive in the MIA-affected offspring. The synaptic surplus in the MIA offspring is induced by deficits in synapse engulfment by microglia, which is normalized by exercise through microglial activation. Finally, chemogenetically induced activation of granule cells promotes the engulfment of CA3 synapses. Thus, our study proposes a role of voluntary exercise in the modulation of behavioral and synaptic abnormalities in neurodevelopmental disorders.

神経発達障害者の異常行動は、一般に不可逆的であると考えられている。今回、我々は、母性免疫活性化(MIA)により誘導された神経発達障害モデルマウスで観察された社交性、反復性、不安の異常が、自発的なランニング(回し車を回す)により改善されることを明らかにした。運動は歯状顆粒細胞の一部を活性化し、MIAの仔で過剰な海馬CA3シナプスの密度を正常化する。MIA患児におけるシナプスの過剰は、ミクログリアによるシナプス貪食(engulfment)の欠陥によって誘発されるが、運動によってミクログリアの活性化することによって正常化される。最後に、化学遺伝学的に誘導された顆粒細胞の活性化により、CA3シナプスの貪食が促進される。このように、本研究では、神経発達障害における行動とシナプスの異常の調節に、自発的な運動が果たす役割を提唱するものである。

Keywords

maternal immune activation, autism, microglia, synapse, hippocampus, exercise

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Discussion

本研究は、母体免疫活性化に曝された仔で観察されたシナプス余剰とASD関連行動におけるミクログリアの役割と、成体の自発的な運動によるその修飾を明らかにしたものである。歯状回-海馬CA3結合の修飾は、マウスの自閉症様行動と関連する海馬の他の脳領域との機能的結合に影響を与える可能性がある(Zhan et al.、2014)。さらに、成人したMIAの子孫における機能的な苔状繊維シナプスの密度の増加は、ASDのげっ歯類モデルにおいて海馬ニューロンの興奮性とスパイン密度の増加を示した先行研究(Tyzioら、2014、Jawaidら、2018)と一致している。

本研究では、神経細胞活性とミクログリア活性化を媒介する分子メカニズムを評価していないが、考えられる候補は、C1qやC3などの古典補体経路に関与する分子である。C1qとC3は、網膜-脳結合繊維において、比較的弱いシナプスや不活性なシナプスをタグ付けしてミクログリアに取り込ませること(engulf)が示唆されている(Schafer et al., 2012, Stevens et al.) このように、補体分子も運動による苔状線維シナプスの刈り込みに寄与している可能性があるが、この現象はシナプスの競合に依存していると考えられる。苔状線維シナプス間の競争は、他の分子によって調節されるかもしれない。例えば、脳由来神経栄養因子(BDNF)は、苔状線維ブトンにおいて濃縮されており(Koyama et al.、2004)、運動によって上昇する(Voss et al.、2013)。さらに、BDNFは神経細胞の活動に応じて苔状線維ブトン(シナプス前終末)から放出され、シナプスの成熟を誘導する(Yoshii and Constantine-Paton, 2010)。したがって、運動による顆粒細胞の活性化が苔状線維ブトンからのBDNFの放出を促進し、一部のシナプスを強化することで、シナプス競合を引き起こしている可能性が考えられる。しかし、海馬のBDNF量の変化は、高齢(22ヶ月齢)のMIAマウス(Giovanoli et al., 2015)で減少した以外は、MIAのマウスモデル(Han et al., 2016, Han et al., 2017)において報告されていない。これらの分子に加え、成人期に新たに生成された顆粒細胞がシナプス競合を誘導する鍵になると考えられる。成人期の神経新生は随意運動により増強され(Voss et al.、2013)、成人期に生まれた顆頭細胞は既存の成熟顆頭細胞よりも高い興奮性を示す(Danielson et al., 2016)。MIAは生後数日間と成人期の両方で歯状回における神経新生を阻害し、新生顆細胞の成熟を損なうことが明らかにされています(Zhang and van Praag, 2015)。したがって、運動による神経新生の促進は、成体で生まれた顆粒細胞由来のシナプスと既存の成熟顆粒細胞との間の競合にも寄与していると考えられる。

本研究では、運動によって成体MIA子孫の異常行動とシナプス余剰が回復することが明らかになった。運動によってニューロンの一部が活性化し、余剰シナプスがミクログリアによって取り込まれることが判明した。このことは、シナプスの競合によって誘発されたと考えられる。しかし、CA3シナプスの余剰がMIA子孫の行動異常の根本的な原因であるかどうかは未解決である。

ASDなどの神経発達障害患者の異常行動は、一般的に生後8~10カ月までに現れ、それ以降は不可逆的であると認識されてきた。これまで、自閉症様の行動が改善されることが報告されているが、その効果は一過性であったり、遺伝子改変が必要であったりした(Yizhar et al., 2011, Mei et al., 2016)。これに対し、我々の知見は、ASD症状を改善するための臨床的に応用可能な方法を提案する。ASD症状の発症だけでなく可逆的な側面に関与する細胞および分子メカニズムをよりよく理解するために、さらなる研究が必要である。

運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する(東京大学プレスリリース)

運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善、治療に有効である可能性-東大(QLifePro)

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